イタリア関連コラム


※1995年発売の「GULLIVER ITALIA TRAVEL GUIDE BOOK」に掲載されたものです

まずは食前酒を一杯。これなしにイタリアの話は始らない
今、イタリアで話題の食前酒がAperol(アペロル)。オレンジ色の綺麗なリキュール。最近は日本へも輸入されている。しかし昨日今日発明されたわけじゃない。1919年に生まれ、60年代にはブームを巻き起こした立派な伝統の持ち主。近年、テレビ・コマーシャルが幾つかの賞を取り、第二の春が訪れた。味はかなり甘い。そしてほろ苦い。カンパリがキリッとした美人、マルティーニが育ちのいいお嬢さんなら、アペロルは熟女。複雑で不思議で深い甘味に身をまかせると、苦味が後から訪れる。飲み方の基本はオン・ザ・ロックにオレンジ・スライスを一枚。凍る直前まで、冷やせば冷やすほどうまい。氷とともにシェーカーでさっと振り、冷やしたグラスに注いで素早く飲むと最高。炭酸水やミネラルウオーターで割ってもよい。一方、食前酒のシーンに君臨する不動の王様がご存じカンパリ。中でも、小さな瓶の出来合いカンパリ・ソーダが最もポピュラー。人知を尽くした研究成果、ソーダとカンパリの配合は文句のつけようなし。但し日本でこれを見つけるのは至難の技。
カンパリ・ベースのロング・ドリンクでなぜかヴェネツィア周辺でだけ飲まれているのがスプリッツ。この地方では発泡性ワイン・プロセッコと食前酒の双璧をなすが、ミラノやローマじゃ誰も知らないほど極度にローカル。レシピはカンパリ、白ワイン、炭酸にレモン・スライスとオリーブを沈める。まずオリーブを齧りながら飲み干し、最後に赤く染まったレモンをやっつける。ヴェネツィアのバールへ行ったら澄ました顔でスプリッツを注文しよう。バーテンダーが2mは飛び上がる。
薬用食前酒とも呼べるのがZucca(ズッカ)。漢方薬の一種ダイオウのエキスがたっぷり入っている。瓶の裏側には「中国産、真のダイオウ」と記した、赤い植物の写真まで付いているからご立派。その他、身体に良い様々な根っこや葉っぱのエキス入り。魔女が煎じる秘薬を想像させる香り、ほとんど真っ黒な液体はこの上なく無気味。ところがうまい。ほどよい甘味と複雑な苦味が、ちゃんと調和していい味を出している。そのままで一番飲みやすい食前酒かもしれない。
もう一つの変わり種がCynar(チナール)。アーティチョークがベースだというから凄い。ラベルにも、緑鮮やかなアーティチョークが大きく描かれており、バールの棚で一番目立つ存在。苦味が強く、かなり後を引く。だから飲む時はピクルス系を受けにするといい。
下戸に嬉しいノン・アルコール食前酒の代表がCrodino(クロディーノ)。オレンジ色の炭酸飲料でジンジャエールに似ているが、よりさっぱり爽やか、ちゃんと胃を刺激してくれる。どこのバールにも置いてるし、公的なパーティーでも必ず用意されている。お陰で酒の飲めない人もグラス片手に食事前の楽しい一時を過ごすことができる。

ここなら絶対安全、面白い。セリエAは、この席で観よ!
イタリアでサッカーを観戦し、五体満足で帰りたい人へ。1989年、過激で有名なフィオレンティーナ・ファンが敵ファンの列車に火炎瓶を投げ込んだ。1993年には国鉄の駅でサンプドーリアとA.C.ミランのファン数百人が大乱闘を起こしている。よって長距離列車は避けよう。ドライブインも要注意。バスを貸し切ってスタジアムへ向かうサポーターも多い。イタリアはトイレ休憩ができるドライブインが少ない。だから敵同士が鉢合わせする確立も高い。腕に自信のない人はトイレを我慢しよう。
要は試合当日に長距離移動しなけりゃいい。スタジアムに行く都市交通は個人または少人数で観戦する人しか利用せず比較的安全。スタジアム周辺は例外を除けば問題なし。警備の警官が見渡せるように作られている。
感性の国イタリアではスタジアムは強烈な個性を持つ。優雅なデッレ・アルピ、迫力のサン・シーロ、レンツォ・ピアノの手による芸術的サン・ニコーラ。わたしゃ初めてサン・シーロを見た時には鳥肌が立った。スタジアムを眺め、怪しげな屋台をひやかす時間を考慮して試合開始30分前には着きたい。唯一周辺部が危険なスタジアムがジェノヴァのルイージ・フェラリス。ここへ行ったら見通しの悪い場所へ入り込まないこと。スタジアム内の安全は席の選び方しだいだ。
ミラノのサン・シーロを例にとり、ベスト・ポイントを探してみよう。他のスタジアムにも応用可能。観客席は数セクションに分かれ、それぞれ透明な高い壁(乗り越え不可能)で隔てられている。コーナーの一つに通常500〜3000人のアウェイのファンが陣取る。間違ってもこの中に紛れ込んではいけない。アウェイの試合を追い掛けるファンは過激だと相場は決まっている。しばしば警官と乱闘になる。ここが危険率ナンバーワン。次がゴール裏、イタリアでは「クルバ」と呼ばれるところ。年間通してチケットを買う熱狂的ファンが集まる。特にクルバの二階席は「ウルトラ」と呼ばれ警察からもマークされている超過激なサポーター・クラブの指定席。発煙筒を焚いたり爆竹を投げるのもほとんどはここ。安全に観戦するコツは、これらの危険地帯から遠ざかること。グラウンド長辺の中央部分だと周りに危険分子はいないし、瓶や爆竹も届かない。中でも後方の安い席がいい。かなりの高さから見下ろす形になり、選手のポジション、フォーメーションがはっきり分かる。その上エキサイトするファンまで高みの見物だ。

真実の”完熟トマト”を知らずに、イタメシは決して語れない
イタリアにはトマトが2種類ある。サラダ用トマトと煮込んで食べるソース用。サラダ用は基本的に日本のトマトと同じ種類。でも味は全く違う。色、形、大きさを揃えるために英才教育した日本のトマトに比べ、見てくれは武骨でもトマト本来の味がする。
残念ながら日本にないのがイタリアのソース用トマト。一回り小さく、果肉が薄く、ジュースがたっぷり詰まっている。そのまま食べてもおいしくないが、軽く煮込むだけで摩訶不思議、独特のこくが出て味わい深いソースとなる。このトマト日本にないのは当たり前。暑くて乾燥した南イタリアの気候でしか美味しく育たない。強烈な太陽を思い切り浴びてブヨブヨの真っ赤っかになるまで畑で完熟させなくてはいけない。日本のスーパーで売っている「完熟トマト」とは赤さが違う。黒みを帯びてテカテカと光り、血のような色をしている。太陽エネルギーを限界まで蓄積したパワフル・トマト。金と手間のかかるハウス栽培などしないから、収穫時期に当る夏場にしか出回らない。初夏にイタリア最南部カラブリア、シチリア産が市場に姿を見せ始め、9月まで桜前線ならぬトマト前線が北上する。その間八百屋の店先は、ソース用トマトで山となり、秋の訪れとともに消えていく。昔からイタリアの家庭では夏場に一年分のトマトソースを仕込み、瓶に詰めて保存した。これが現在世界中に出回っている缶詰、瓶詰、紙パックトマトの原形。奇妙なことに日本では、サン・マルツァーノと呼ばれる細長トマトの缶詰がもてはやされている。缶詰メーカーと輸入業者の陰謀か?日本人はトマトソースは細長トマトで作るもの、本場イタリアでは間違っても丸いトマトでソースを作ったりしないと思っている。笑止千万。おおらかなイタリア人はトマトの形なんぞにこだわらない。両方とも同じように利用している。細長トマトにもサラダ用と小振りで完熟させるソース用があり、丸いソース用トマトの缶詰もイタリアではポピュラーだ。イタリアのトマト缶でソースを作ると抜群にうまい。南イタリアでとれた由緒正しいソース用トマトだから当然のこと。その上たいていは畑近くの工場で加工するから、流通過程で潰れる心配もなく、腐る寸前まで畑で完熟させている。はち切れんばかりのうまみを素早く残らず密封したトマト缶。日本にいる我々でさえ美味しいトマトソースを堪能できる。

スタンダ、ウピム、コインにリナシェンテ。安い、便利!イタリアのデパートはあなどれない
イタリアには全国チェーンのデパートが4つある。STANDA(スタンダ)、UPIM(ウピム)、COIN(コイン)、RINASCENTE(リナシェンテ)。違いをちゃんと把握し、使い分けると限り無く便利。まず、スーパーの機能も持つスタンダ。上記の中でここだけが食料品を売る。おみやげに、イタ飯好きなら自分用に買って嬉しい食材の数々。日本にはない形や色の乾燥パスタ、混ぜるだけで本場のイタリア料理ができるパスタ用缶詰ソース、エスプレッソ用コーヒー豆、いずれも腰を抜かすほど安い。節約派の人はスライスした生ハム、チーズ、パン、フルーツなどを買い、ホテルで食べると財布が喜ぶ。そしてオタク必見のワイン・コーナー。安くてうまいワインの宝庫。酒屋より種類が多く、棚にずらっと並んでいるから買いやすい。地方色も豊か。特にテーブル・ワインはその土地でしか買えないものが多い。日曜雑貨や衣料品の商品構成、価格帯は次のウピムとほぼ同じ。
生活必需品ならウピムで全て揃う。衣料品は使い捨てもできそうな低価格が特徴。安くてセンスのよいお土産を買うにもここは最適だ。イタリアらしい色、柄のエプロン、テーブルクロスは一万リラくらいから。文具コーナーのおすすめは、和紙に似た独特な紙や伝統的な柄の日記帳やメモ帳。カラフルな食器売り場も一見の価値あり。エスプレッソ用の小さなカップがソーサ付きで5000リラ程度。家庭用ガス台でエスプレッソができるカフェッティエーラとセットにして贈ったら、きっと喜ばれることだろう。
コイン、リナシェンテは日本の小さなデパートに近い。コインの方が多少品質が高く、値段も然り。
コインでは自社ブランドの服にターゲットを絞ろう。レディースだけで8つのラインを持ち、すべての需要をカバーする。有名ブランドを除くとイタリアの服はしばしば、質にばらつきがあるがここなら安心。一部の商品はイタリアの生地を東欧で縫製し、質を維持して低価格を実現している。特に、昼のフォーマル「FOXTON(ブランド名)」、高級カジュアル「MISSTWIDO」、夜のフォーマル「COEXIS」はコストパフォーマンス高し。日本の3分の1以下の値段で質の高いスーツやカクテル・ドレスが買える。メンズの狙い目は「LUCA D'ALTIERI」のジャケットとスーツ。カシミヤのジャケットが50万リラ前後。ウールなら約30万リラ、スーツが50〜80万リラ。生地が良くラインが綺麗で縫製もしっかりしている。ここのメンズにピエール・カルダンが入っているので比べてみるとよく分かる。まず遜色ない。
数あるデパートの中で異彩を放つのがミラノのドゥオーモ広場にあるリナシェンテである。ここでは外国人観光客を意識した商品構成が見られる。一階のポイントはまず入り口正面の化粧品売り場。シャネル、ランコムをはじめ高級化粧品が勢揃い。次に隣の、財布を中心とした革小物売り場。質は並みだが、べらぼーに安い。軽くてかさばらないベストなお土産だ。
エスカレーターの陰にあるスカーフ売り場も見逃せない。フェレ、ヴェルサーチ、ヴェレンチノ等ブランド物を見比べて買える。これぞれのブティックでは出来ないここだけの特権。しかも値段はブティックと同じ。メンズの衣料品では中二階に大きく取ったニット・コーナーに注目。クラッシックなセーターから今年の流行までメンズ・ニットをここまで揃えた店は他にない。ミッソーニ・スポーツも入っている。生産システムの違いからニット製品には日本で作れないもの、採算が合わないため作らないタイプもある。3階レディースではシルクの下着がお買得だ。上質のキャミソールが10万リラ前後。黄色、ピンク、グリーンの淡い色合いはイタリア独特のもの。シルクのパジャマもおすすめ。イタリアは銀の安い国。地下の食器コーナーでは豊富な銀器が庶民にも手の届く価格で売っている。大事な人へのお土産に、自宅の調度に買って損はない。地下にはリチャード・ジノリ、アレッシも入っている。館内で貰ったレシート(飲食を除く)は3階のオフィースへ持っていくと、全部まとめて免税手続きをしてくれる。
買い物に疲れたら最上階の見晴しのいいティー・ルームでひと休み。ドゥオーモの屋根の彫刻とにらめっこしながらエスプレッソが飲める。同階のレストランはマルケージの支店。野菜だけのフルコース(4万5千リラ)を食べてみよう。




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