第8章 1943年、カステルフォンブローネのヴィスコンティ

 運命の日9月8日の午後、そんな気配は全く感じられなかった。
 確かに私は兵舎にいた。何か少しくらい知っていても不思議じゃない。しかし、まったく何もなし。いつもと同じ午後だった。私はバラエティーショーの切符を2枚持っていたので、司令部の事務所へ行き外出許可を申請した。そしてサントーロ下士官を誘い、リコッティーナ(円錐形のリコッタチーズに似た、夏用の白い帽子を海兵隊ではそう呼んだ)を整えた後にくりだした。
 ショーはヴァッレ劇場で行われた。ある新聞が主催する慈善活動で、歌手、役者、ダンサーがたくさん集まっていた。クワルテット・チェトラがショーのとりを飾る。この有名グループは当時まだ男性だけで編成されていた。ジャコベッティ、キウザーノ、サヴォーナ、デ・アンジェリス、今でも良く覚えている。
 天井桟敷の手摺りにはたくさんのリコッティーナが並び、さながら田舎の市場だった。暗やみに浮かぶ真っ直ぐな光りの帯、スポットライトは紫、黄色、青、赤の輪を作り、『ラジオのナイチンゲール』デア・ガルバッチョを、『小劇場のソロダンサー』ハリー・フェイストを、ボーカル・トリオのアウローラ、『プリンス』ブランチフォルテ、そしてルチオ・アルデンツィを照らし出した。
 ショーの間中、観衆が冷めていたのが印象的だ。プログラムに並ぶ華麗な名前にもかかわらず、上の空の拍手が続いた。何かを予感した雰囲気があった。
 ショーは終わりに近づき、司会者が最後の出演者を告げる。「クワァルテット・チェートラー!!!」。シルクハットにステッキを持った4人が登場し、当時大流行していた持ち歌を歌い始めた。

  ブリオーネの子孫、カステルフォンブローネのヴィスコンティ・・・

歌に合わせてステッキを振り、お辞儀し、シルクハットを持ち上げ、回転する4人の動きは完全に同調していた。プロの芸である。

  ロマート伯爵に決闘を申し込み、手袋を投げつけた・・・

時々リズムに合わせて右へ左へとステップを踏む。しかし当時のマイクが持つ限られた性能を考慮して、余り遠ざからない範囲で。

  ある夜大使館のバールで彼女を連れた奴に出会った
  2人は微笑んで優雅にお辞儀した
  そして介添人を奴に送りつけた

1度に観客席は活気付いた。その時、天井桟敷にいた私は白いものが平土間の奥から入って来るのを見た。闇に浮かんだおばけのようなその姿は1人の男であり、座席の間を通り、最前列まで進んで行った。
 クワルテット・チェトラはその間も歌い続けている。

  ほら、介添人が小道からやって来た。黒いシルクハットに真剣な面持ち・・・

最前列にたどり着いたおばけは、腰を屈め、左側に座っていた男に何事かを告げた。男は立ち上がり、廊下の向こうに座っている者に駆け寄る。そしてこの男の場合は突然両手を突き上げ、肺に溜めた全ての空気を吐き出しながら喚いた「休戦協定だぁー!!!」。
 平土間の全ての観客はそちらを向き、多くは立ち上がり、ざわめきがばか騒ぎに変わっていった。天井桟敷からは海兵のリコッティーナが投げられ、平土間を舞った。しかし舞台ではクワルテット・チェトラが歌い、踊り続けている。

  歩数を数えて同じ武器を持ち、2人の男は闘った・・・

ばか騒ぎは、騒乱状態の観衆が一体となった叫びに発展していた。
するとクワルテットの1人が動きを止め、観客に向かって両手を広げながら哀願するように言った「お願いだから少し静かにして下さい。これじゃ続けられません。」。 そして3人のところへ戻り、帽子を被り直し、うんざりした様子を見せながらも4人一緒に再開した。

  ブリオーネの子孫、カステルフォンブローネのヴィスコンティ
  ロマート伯爵に決闘を申し込み、手袋を投げつけた・・・


リガトーニの四重奏(4種類のチーズ)

材料(6人分)
リガトーニ 500グラム
おろしたパルメザンチーズ 50グラム
おろしたグリュイエールチーズ 50グラム
小さく切ったオランダ産チーズ 50グラム
小さく切ったモッツァレッラチーズ 50グラム
牛乳 500cc
バター 100グラム
小麦粉 大匙2杯
ナツメグ 少々
パン粉 1掴み

まずはベシャメルソースから。鍋に50グラムのバターを溶かす。溶けたところで小麦粉を加え、牛乳を少しずつ注ぐ。
弱火でしばらく煮続ける。ナツメグ少々と、勿論塩、胡椒で仕上げる。
リガトーニをアルデンテに茹で上げ、残った50グラムのバターで和える。
バターを塗ったオーブン皿を用意し、リガトーニとチーズが交互になるように幾つかの層を作る。
最後にベシャメルを上に掛け、パン粉をまんべんなく散らす。
オーブンに入れ、表面が狐色になるまで焼く。
熱い内に食べること。




次のページへ

大食らい表紙へ

執筆、翻訳のページへ

イタリア企画ルーム表紙へ

御連絡、お問い合わせ