第14章 1972年、オルジャータ(※地名)のブッラータ(※チーズ)

 「ラ・グランデ・ブッフェ(※映画)を撮影している間に、何キロ太りましたか?」これは2年ほど前から、色々な人が私に向ける質問だ。
 そしてX男爵婦人(名前は伏せておく。なぜなら私にも家族があるから。妻が1人、子供は何人か覚えてない)もこの質問をもって、あの夜オルジャータにそびえる屋敷の門で私を迎えた。
 あぁ!オルジャータ、まさにローマで1番閉鎖的な貴族地区。そこでは私のような役者(一般世間では無名な訳でもないが)は、スクリーンでおどける可哀相な平民、パーティーに興を添えるために招く人種と考えられている。
 とにかくその夜、トイレットペーパーに印刷された招待状(いつも優雅な貴族達は、これをイギリス風ユーモアと呼ぶ)に書かれた通り、10時45分丁度に私はオルジャータへ到着した。
 車で『エデンの園』の入り口へ着くと、遮断機が行く手をさえぎった。制服を着たガードマンが2人いる。ここが平民と持てる人々を隔てる検問だ。15分間にわたり、私は自分が誰なのかを説明しなければならなかった。身分証明書、パスポート、不思議な書類へのサイン、国営放送局の入場チェックよりしまつが悪い。
 やっと中に入ることができた。
 たくさんの道路、小道、十字路、そして私の居心地を悪くする標識の数々。『ゴルフ場』、『北のプール』、『乗馬場』、『東のプール』。東西南北にプールがある。
 屋敷はどこかって?それは千年樹の生い茂る森の中に隠されている。そして当然のことながら、税務署の役人が尻尾を巻いて逃げるよう、様々な罠が仕掛けられている。砂地獄、襲いかかる植物、etc。未だかってどんな役人も、支払い命令を手渡す事に成功した例はない。そう、この手の人々は銀行口座を次々と開くが、閉めることはめったにない。
 そこは『ローマの金持ち』とその子供達で溢れている。ミラノの金持ちとは全然違う。彼らはたとえ一家の悪運がもう長くは続かないことを、すでに知っているとしても言うだろう。
 「パパはポルト・サント・ステファノへ遊びに行った。」。
 ポルト・サント・ステファノはご存じの通り、大金持ちだけが別荘を建て、持ち船をヨットハーバーに繋ぐことができる湊町だ。彼らは自分の『パパ』が、ローマ政府と南イタリアを結ぶラインに乗り、大金をせしめたこともちゃんと知っている。
 ミラノの金持ちなら、少なくとも家族の悪臭を隠す努力くらいはする。
 「パパは仕事でパリに行ってます。」。
 本当は彼の父親がポルト・サント・ステファノへ行っているとしても。

 最初の料理が運ばれてきた。みんな私を見ている。
 「さて、あの汚い平民は何から食べ始めるかしら?」私を見ながら考えている「どんなげっぷをするかしら?」。
 私は彼らを失望させた。胃痙攣をおこすほど空腹だったにもかかわらず、生ハム入りリゾットを少々つまむにとどめた。
 そうする内に、やっと救いを見つけた。30前後の、子供っぽいプーリア(※イタリア南部の州)娘。褐色の髪とディズニー風にポッチャッリした鼻を持ち、チャールストンに着飾っている。映画館には1967年以来行ったことがないと言う。これは好都合だ。グランデ・ブッフェ(※映画)式のげっぷを期待される恐れもない。二言、三言交わすだけで、娘と私は料理好きという共通点を持っていることが分かった。それは変わったプーリア娘だった。トマトソース、オリーブオイル、南部色に染まった料理を擁護しようとしない(私の1番仲が良い友人はナポリ人だった。しかし、オリーブオイルを使った目玉焼きとバターを使った目玉焼きの違いについて大喧嘩したため、彼との友情は壊れてしまった。北イタリア生まれの私は、勿論『バター』派だ。1年前から、彼とは弁護士を立てて争っている)。15分間におよぶ会話の結果、私と娘の間には、ある種の料理的セクシーな関係が成立した。
 30分の内に私達は頂点に達する。新しいレシピ『ブッラータチーズのスパゲティ』を発明しながら。
 決定的瞬間に行われた、熱い会話をここに紹介しよう。

娘ー「プーリア産のブッラータチーズを1つ用意するの。2キロ位のやつ。上部をスパッと切っちゃって、中のチーズとバターをかき出して・・・。」
私ー「おっ、いいね!そのバターとチーズでアルデンテに茹でたスパゲティを和えよう!」
娘ー「バジリコかパセリも加えましょうよ、どう?」
私ー「もちろん入れる!それから細く切った生ハムを150グラム!」
娘ー「まあ、なんて素敵なんでしょー!さあ、全部を大鍋の中でかき混ぜましょう!でも、ゆっくり、ゆっくりと・・・。その間に私達のことを話しましょう。あなたのこと、私のこと・・・。」
私ー「全部をブッラータの中に詰め込んで、その上にパルメザンチーズを散らす!」
娘ー「キャー、私もう死んじゃうわ!蓋をして、オーブン皿に乗せて火照ったオーブンの中に・・・あらっ、だから熱いオーブンへ入れるの!」
私ー「中火でね。ブッラータの表面が赤銅色になるまで。君の肌と同じ色だ!」
娘ー「さあ、できたわ。テーブルへ運びましょう。早く、早く!」
そしてこの瞬間、私は彼女の背中に手を回した。

 不思議な小部屋(キッチン)で真っ裸の私達を見つけ、男爵婦人は跳び上がった。
 オルジャータと私の関係はここに終わりを告げる。しかしプーリアとの長い付き合いが始まった。けっして料理的なだけではない関係。



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